著者がCore i7-10700でマシンを組んでみたあと、Steamのセールに乗っかって3DMarkのAdvanced版を超お買い得なお値段でゲットしました。その流れでより詳細な性能チェックのレポートを追加したのですが、同等の内容の詳細テストをRyzen 5 3500マシンの方でも行なってみることにしました。
こちらのマシンはCPUが異なるだけではなく、GPUのほうも一時期ものすごく安く出回っていたRadeon RX570で世代と性能が結構異なります。
そのあたりの性能差がどれぐらいのものになるのか、じっくり確認したいと思います。
追加テスト内容
今回実行した詳細テストの内容はCore i7-10700マシンで行なったテストに準じています。大きく分けて以下の3つのテストを実行しました。
- 3DMarkのフィーチャーテスト4種
- TMPGEnc Video Mastering Works 7による動画エンコード
- Sandra Liteによるメモリ性能
3DMarkはテスト内容自体に変化はないものの、バージョンが上がってダッシュボード側に手が入っています。その関係でより詳細なテスト内容の一覧がしやすくなりました。そういった部分も一緒にまとめていきます。
動画エンコード性能では、クロックあたり性能、電力効率が非常に優れているRyzen 5 3500の6コア6スレッド対応の構成がどう影響するかがちょっと面白いと思われます。
メモリ性能周りでは、Ryzen 5 3500マシンで使っているメモリがコスト重視のDDR4-2400規格のものだということの影響などを見ておきたいところです。
3DMarkのフィーチャーテスト
まずは主にGPUの性能を見る3DMarkのテスト結果からです。
搭載しているGPUがRadeon RX5700よりも1ランク以上性能が劣るRX570搭載機ですので、極端に高い性能を要求する4k解像度などでのテストは最初から対象に入れていません。
数世代前のチップに相当するぐらいのRadeon RX570でどの程度の数字が出てどれぐらいのランクのゲームが遊べるか、そのあたりがチェックポイントでしょうか。
Time Spy
最初にチェックするのは最新世代のGPUの性能を見ることを念頭に置いて作られているTime Spyです。
以前のテストの結果と差はなく、数字上の違いは誤差程度。Time Spyのベンチマーク結果はグラフィクスが3,814、CPUが4,876でトータル3,942ポイントでした。

非常に重いグラフィック処理の入ったベンチマークですが、最新世代(GeForce RTX 3000シリーズ、Radeon RX 6800シリーズ)ではフルHD解像度だとベンチマークスコアが飽和するぐらいまでGPU側の性能が上がってきています。
実際そのレベルの描画性能を要求するゲームも登場していますが、そういったタイトルはほんの一握り。そのタイプのゲームを快適に遊びたい人は最新・最強のGPUを選ばないとどうにもなりません。
そういう「特別な」タイトルを除けばRadeon RX570でもまだまだ遊べるゲームはたくさんあります。
3DMarkでサンプルとしてあげられているゲームタイトル、Battlefield Vは2560×1440ドットの画面に描画品質「Ultra」の条件で40fps以上が期待できるとの評価です。
最新の3DMarkのダッシュボードではこんな具合にテスト実行中のCPUやGPUの各種パラメータをグラフでわかりやすくまとめてくれます。レポートまとめる上では非常にありがたいですね。

グラフを見るとCPU、GPUとも冷却性能は十分。騒音的にも気になるレベルではありませんでした。エアフローのために天板がメッシュ構造になっていますが、元々のノイズの発生自体が小さめなのでしょう。
Fire Strike
続いてDirectX11フィーチャーの性能をチェックするFire Strikeです。
こちらの性能はグラフィクス13,381、CPU 12,692のトータル11,043ポイントとなりました。

ちょっと面白いのはこちらのテストだとメジャーゲームタイトルでのプレイ感により余裕がありそうな表示になっているところです。
Battlefield Vは2560×1440ドットの画面に描画品質「Ultra」の条件で45fps以上の動作が期待できる、との評価でRadeon RX570はDirectX11の性能の方が期待できそうな数字になっています。
Sky Diver
Sky DiverはiGPU、CPUに統合されたGPUのベンチマークとして作られたテストとされています。が、そこそこの重さはあるので、実際には一般的な統合GPUを使ったPCでのグラフィックベンチマークには少々重いかもしれません。

テストのターゲットがそういうところになっていますので、独立GPUでそこそこの演算能力を持つRadeon RX570ならば楽々。グラフィクス38,573、物理演算テストで12,639のトータル28,191ポイントを叩き出します。
こちらは統合GPUターゲットの中でもDirectX11ベースのテストとなります。
Night Raid
3DMarkのベンチマークテストで4つめに実行したのがNight Raidでこちらも統合GPUの性能チェックをターゲットに据えたものですが、こちらはDirectX12ベースのテストとなります。

こちらも十分以上の性能を発揮していて、グラフィクスでは52,887、CPUが9,703、トータル31,714ポイントとなっています。
スコア的に見て統合GPU搭載機であればグラフィクスとCPU性能のスコアがもう少しバランスするのでしょう。今では性能的にミドルレンジの底ぐらいのポジションになっているRadeon RX570ですが、やはりまだまだ統合GPUとの間には厳然たる性能差がある、ということですね。
3DMarkがリコメンドするとおり、そこそこの描画負荷がある3DもののゲームでもフルHD解像度なら十分に遊ぶことが可能な結果と言えるでしょう。
動画エンコード性能
続いてTMPGEnc Video Mastering Works 7による動画エンコード性能です。
まずはMPEG4 AVC(H.264)でのエンコード時間から。
フルHD解像度60fpsでビットレート20Mbps程度、MPEG4 AVCで記録された5分46秒の動画を平均ビットレート6Mbpsで2パスエンコードさせたものです。

処理時間は14分と7秒かかりました。
Core i7-10700をTDP 65W枠で動作させたときの処理時間が10分9秒。実コア数2つ分以上の性能差が現れています。Core i7-10700のほうは8コア16スレッド対応CPUですので、対応スレッド数の方も確実に実処理性能に効いている模様です。
ただしRyzen 5 3500とCore i7-10700とでは販売価格に大きな差があります。そこまで考えるとコストあたりの性能は完全に逆転しますね。Ryzen 5 3500のコスパの高さが光ります。
特別に動画エンコード性能が良いわけではありませんが、十分な性能はありかつ低価格。Ryzen 5000番台が出た今でもRyzen 5 3500のコスパの高さは十分に魅力的だと思います。

H.265(HEVC)コーデックでのエンコード時間は23分45秒となりました。
H.264コーデックでのエンコード時間の1.6倍ちょっと。H.265でのエンコードがH.264の1.8倍以上かかっていたCore i7-10700よりも時間の増加が控えめです。
ソフトエンコーダの作りにもよるのですが、少なくとも今回の測定結果では、Ryzen 5 3500はCore i7-10700よりもH.265の動画エンコードが得意な様子が見えます。
H.265はより効率の良い動画フォーマットでこれから使われるケースが増えていくはずですから、これはちょっとうれしいポイントになります。
さらに動画エンコード実行中の詳細なCPUの動作データをRyzen Masterで確認してみました。するとどうもRyzen 5 3500ではTDPの枠である65Wを使い切れていない雰囲気がありますね。

CPU PowerとSOC Powerを単純に合計すると47W程度にしかなりません。
ここをもうちょっと詰められるとよりコスパの高いCPUが生まれそうなのですが、例えばRyzen 5 3600との性能の兼ね合いや、ダイの動作周波数耐性の問題があってこの程度にあえて抑えているのかもしれません。
ちょっと惜しい気もします。
元々はRyzen 5 3500のようなCPUはCPUダイの一部に欠陥があって8コアすべてを使えないものや、スピードイルード面で高クロック動作に耐えない個体を無駄にしないために生まれた製品ですから、こういった性格が出てしまうのはやむを得ない部分でもあるのですが。
Sandra Liteによるメモリ性能
Sandra Liteも使ってメモリ性能、キャッシュの性能もチェックします。
まずはメインメモリの実効帯域から見てみましょう。
転送速度は27.83GB/sの数字が出ています。

使用しているメモリはDDR4-2400のものですので、1チャンネルあたりの論理帯域は19.2GB/s。デュアルチャンネルで38.4GB/sという値になります。
これに対して実効転送速度が27.83GB/sなので効率としては72.4%。なかなか優秀な数字と言えると思います。が、最新のCPUのメモリコントローラとしては飛び抜けてすごい数字でもなかったりはします。最近のものはこの辺りの性能もとても優秀ですから。
Zen2世代のRyzenシリーズではCPUコアのダイとメモリコントローラ等々をまとめたI/Oダイが分離され、パッケージの中で高速・低レイテンシのインターコネクトで接続されるカタチを取ります。
このため原理的にはCPUコアのダイにメモリコントローラが内蔵されている場合に比べると不利な要素になります。が、このメモリアクセスの実効効率を見る限りは内部インターコネクトの性能も十分で、メモリアクセス回りはCPUコアの足を引っ張る形にはなっていなさそうに見えます。
次にメモリアクセスのレイテンシをチェックしてみましょう。

32kBまでは恐らく1次キャッシュで4クロックの遅延でアクセスできています。512kBまでが2次キャッシュになるでしょうか。この範囲は概ね11クロックの遅延。
CPUのスペック的にはRyzen 5 3500の2次キャッシュは3MBとされていますが、これは6コア分全部をまとめた数字です。1コアあたり512kBが合計6つ有効になっている、ということです。
3次キャッシュは合計16MBあるはずなのですが、Sandraのデータではちょっと不思議な感じになっていて、8MBの範囲までは確実にキャッシュにヒットしているレイテンシになっているのですが、16MBではメインメモリアクセスに近いかなり大きな遅延を記録しています。

サイズの境界部分が微妙にSandraの動作とはマッチしないのかもしれません。
Core i7-10700との比較だと2次キャッシュのレスポンスがやや速く、3次キャッシュではより大きな性能のアドバンテージがRyzen 5 3500側にある感じです。この辺りの性能がZen2アーキテクチャの良好な実効性能を下支えしていそうです。
まとめ
より詳細にRyzen 5 3500マシンの性能をチェックしてみました。
実のところどのパーツも性能を欲張っていないバランス志向と言えるマシンですが、このチェックを行なった上でも、今でも十分に使える性能を備えた一台になっていることが分りました。
今はケースや電源にかなりしっかりしたものを導入していますが、この辺りのコストを抑えればより高コスパの1台が組めるチョイスです。
Ryzen 5 3500は登場時から価格が下がっていませんが、今でもメインストリームクラスとして十分な性能とコスパ、電力性能の良さを兼ね備えています。今はRadeon RX570のほうの価格が元に戻ってしまった感じですので、価格面を考えると別のGPUをあたった方が良い組み合わせがあるかもしれませんね。
特別に性能追求しないエントリークラス+αぐらいのパーツ選びでも、ほとんどの要素で問題ない、というレベル以上のウェルバランスなマシンが組めることもよく分ると思います。
トップエンドの重いタスクと一般的なネットブラウズやオフィスワークの負荷の格差がものすごく大きくなってしまったのが今のパソコン周辺の状況です。コスト面にも覿面に響いてきますから、自分の使い途をキッチリと見極めてピッタリマッチするマシンを組むのがPC自作ユーザーの腕の見せ所、と言えるのかもしれませんね。