グラフィックカード

原点回帰。グラフィクス処理重視に戻ったRadeon RX5700を試す

はじめに

私用・仕事用に新たに組んだPCではビデオカードに新世代のRadeon、全く新しいマイクロアーキテクチャを採用して7nmに微細化されたプロセスで製造された《 Radeon RX5700 》をチョイスしてみました。

絶対的な性能や電力効率の面では既にNVIDIAのGeForceシリーズが高い評価を得ています。さらに最新シリーズではリアルタイムレイトレーシングまで実現してきました。

ですが著者はあまり本格的な3Dゲームはプレイしません。また、Radeonシリーズ独自のいくつかのフィーチャーに興味がありました。さらに従来のRadeonシリーズからどの程度の効率アップが図られているかも確認してみたかったのです。

そのあたりが今回のビデオカードのチョイスに繋がっています。

スペック

まずはRadeon RX5700のスペックを確認しておきましょう。

  • 演算ユニット数:36 (2,304SP相当)
  • 基底クロック:1,465MHz
  • ブーストクロック:1,725MHz
  • ビデオメモリ:GDDR6 14Gbps 8GB
  • 消費電力:180W程度

今回はツクモを利用。36,000円ほどで購入しています。

少し前の世代のRadeonシリーズ、RX570から演算回路の規模はわずかに大きくなった程度。その代わり動作クロックが大幅に引き上げられています。

回路規模があまり大きくなっていないのは7nmの製造プロセスを選択した故の制限でもあったりします。7nmの製造プロセスはコストが非常に高いためチップのサイズをあまり大きく出来ないのです。

このため演算ユニット数をそこそこに抑えて動作クロックを引き上げ、処理の方向性をグラフィクス処理に特化したアーキテクチャに変更することでトータルの性能アップを狙ったチップになっています。

ベンチマーク

今回ベンチマークソフトには3DMark、ドラクエXベンチに加え、FINAL FANTASY XVベンチを追加してみました。

Radeon RX5700は今時点でのハイエンド級の性能を持つビデオカードではありませんが、Radeon RX570などとは一線を画する性能を持っていますから、それなりに重いベンチマークじゃないと性能差が見えなくなっているからです。

結果の方はこうなりました。

3DMark Time Spy(DirectX 12)

3DMark Fire Strike(DirectX 11)

ドラクエXベンチ

FINAL FANTASY XVベンチ

3DMarkのスコアはグラフィクススコアで8,000ポイント以上を叩き出しています。この数値はRadeon RX570の2倍以上。

このスコアベースでRadeon RX5700の性能アップ分の内訳をちょっと考えてみましょう。

演算ユニットの規模はだいたい15%アップ。動作クロックの方は概ね35%程度向上。残りの30%以上はマイクロアーキテクチャの変更によるグラフィクス処理効率のアップで実現している計算となります。

厳密に比較していくとまだ最新GeForceシリーズの処理効率には並ぶことが出来ていない感じですが、こちらの面で周回遅れに近かった状態からは完全に脱却したと言える性能です。

まだ次の世代のRadeonのマイクロアーキテクチャの改善の方向性などが見えてきていませんが、これならば更なる改善にも期待が持てそうです。

ドラクエXベンチの方はもうここまでの性能になると完全にスコアが飽和している感じですね。同じ解像度・画質で更なるスコアの向上を狙うには、フレームレートを120Hzとか144Hzに上げてやる必要があるのかもしれません。

FF XVベンチでは動作中の画面を見ている限り特別にフレームレートが落ちて引っかかりを感じるシーンはなかったのですが、スコアはそこまで伸びきることはありませんでした。そこそこ高い評価でプレイ自体は全く問題なさそうですけれども。

ちなみにFF XVベンチではCPUの方にも結構な負荷がかかります。4スレッド~ぐらいの並列動作を行なう作りになっているようです。また、今回テストを行なった設定ではビデオカード側のメモリを6GB以上食っていました。まさに新世代のゲーム、ベンチマークと言える内容になっています。

さすが7nmプロセス

Radeon RX5700はいろいろの改良を重ねてちょっと前の世代とはなりますがRadeon RX570とかRX580あたりのGPUより、実際のベンチマークのスコアにおいて2倍とかさらに上の性能を実現しています。

ですが実際に使ってみている感触ではそれぞれがフル性能を発揮している状態での消費電力はほとんど変化がない、同レベルの消費電力でより高い性能を発揮している感触です。

ビデオカードの補助電源コネクタは6pin+8pinの構成になっていますが、少し動作クロックのピークを抑制するなどすれば6pin 2個の構成でも十分に動作するような気がします。

マイクロアーキテクチャの刷新によるグラフィクス処理効率の大幅な向上も効いていますが、動作クロックを大幅に引き上げられたことに加え電力効率を大きく向上させた7nmの製造プロセスが非常にいい仕事をしていると思います。

ちなみに消費電力の方はと言うと、3DMarkのTime Spy Demo実行時の典型的な数値が240Wぐらい。

FF XVベンチでも同レベルの消費電力です。ちなみに、ドラクエXベンチだとなんと140W程度の消費電力で動いていました。

Radeon RX5700は現時点での独立GPUの性能としてはミドルレンジの最上位かハイエンド級の最下位ぐらいのもので、フラッグシップ級と言えるものではありません。ですが、世に出ているほとんどすべてのゲームをフルHD解像度でなら非常に快適に遊べる性能があります。

普通にゲームを遊ぶユーザー(≠本格ゲーマー)にはとても良い選択肢になってくれる製品だと思います。

実は使えなかったFluid Motion

Radeonシリーズの最新製品の性能等々を実地で確認したかった、というのがRadeon RX5700をチョイスした理由の一つです。ですが、実際にはもう一つとても大切な要素がありました。

それがAMD独自の動画のフレームレートアップコンバート機能のFluid Motionです。

非常に優秀な機能で、ほとんど破綻なく毎秒24コマ(アニメや映画など)や30コマ(TV作品などに多い)の動画を「ぬるぬる」滑らかに表示できる毎秒60コマの動画に変換してくれます。

ほとんどの処理をビデオカード内で行なってくれますので、他に余分な負荷をかけない優れものです。

ですが、実はRadeon RX5700はFluid Motion未対応でした。気づいたときには結構ショックでした。事前にちょっと検索してみれば分ったことだったのですけれど。

ただ個人的には希望的観測でもあるのですが、今後、Radeon RX5700にFluid Motionがやってくる可能性もゼロではないかな?と思っています。

Radeon RX570でFluid Motionを動かしているとき、Windows 10のタスクマネージャーでGPU負荷をチェックしていると3D演算を行なうユニットの負荷が上がるように見えるのです。

完全なる想像ではありますが、Fluid Motionは全部ではないかもしれませんが、3D演算を行なうシェーダユニットのソフトウェアで実現されているのではないか、そんなことをちょっと考えました。

もしこの予想が合っていれば、今後AMDが必要性さえ認めてくれれば、Radeon RX5700を積んだマシンでもFluid Motionが利用可能になる、かもしれません。

まとめ

Radeon RX5700の性能や使用感は概ね事前に想像していたとおりでした。

そこそこの性能と従来のRadeonシリーズを大きく超える電力効率。今の時点の独立GPUでハイエンドを狙える製品ではありませんが、ほとんどすべてのユーザが使いやすい性能を持った製品です。

ただ、純粋にコストパフォーマンスの面で考えると対NVIDIAという点ではまだ少し厳しい所が残るのも事実です。現行世代ではRadeonシリーズはハードウェアでリアルタイムレイトレーシングに対応しませんし、価格面やラインアップの点でもGeForceシリーズの方が製品を選びやすい感じがありますから。

ただ、PlayStationやxboxの次期世代のマシンがどちらもAMDアーキテクチャを採用したことから考えても、今後のRadeonシリーズの展開には十分に期待が持てると思われます。Ryzenシリーズの躍進により企業体力もずっと上がっていますし。

少なくともRadeon RX5700はその基礎を作ったと信じられるだけの中身を持っているように思います。

あとは、差別化の意味でも可能ならばFluid Motionの復活にも期待したい所ですね。