はじめに
著者はしばらくちょっと前の世代のインテルのCoreプロセッサ中心で組んだPCをメインマシンとして使い続けてきました。実際の所、4,5世代前のプロセッサでもほとんどの使い途において性能面で特に困ることがないのです。今はなかなかPC買い換えのきっかけが作りにくくなっています。
その後、色々な条件が重なってようやくメインPCを入れ替える決心をしましたが、最初は《 Ryzen 7 3700X 》あたりで組むことを考えていたのです。
ですが、こちらのサイトで第3世代のRyzenを試してみてそちらの性能の感触を概ね掴むことが出来ました。ならば比較対象としてちょうどいいタイミングでリリースされたデスクトップ向け第10世代のCore iシリーズCPUで1台まとめてみることにしました。

この記事では《 Core i7-10700 》で組んでみたマシンの性能などを詳細にレポートします。まずはCPU編です。
構成
今回組んだマシンは完全な私用(一応仕事に使う)のもので最低5年は使うつもりですので、かなりパーツを吟味してちょっと贅沢構成のものにしてみました。
使ったパーツは以下の通りです。
- CPU :《 intel Core i7-1700 》
- CPU クーラー :《 Noctua NH-U12S 》
- メモリ :《 ADATA PC4-25600 8GB x 2 》
- マザボ :《 ASRock Z490 Steel Legend 》
- HDD/SSD① :《 SSD ADATA SX8200 Pro 512GB 》
- HDD/SSD② :《 SSD Crucial P1 1TB 》
- ビデオカード :《 SAPPHIRE PULSE Radeon RX5700 》
- 電源 :《 玄人志向 750W Gold フルモジュラータイプ 》
- ケース :《 クーラーマスター Silencio S600 TG 》
OSはWindows 10 Proエディションにしています。
Core i7-10700のスペック
Core i7-10700は第10世代のCore iシリーズのうち8コア16スレッド対応製品でTDPを65Wに抑えたものです。

定格クロックは2.9GHz。ターボブースト時には1コアブーストだと最大4.8GHzで動作します。8コアが全負荷状態の時には最大4.6GHz駆動が可能になっています。
特徴としては1コアブースト時と全コアブースト時の最大動作クロックの差が小さいこと。この部分はこのCPUというか、第10世代のCoreプロセッサの実際の動作に大きな影響を及ぼしています。
具体的な内容については以降の詳細レビューにて。
K型番ではありませんので動作クロックの倍率はロックされており変更は不可能です。また、統合GPUを搭載していますが今回は使用しません。
まずは定格でベンチマーク
まずは定格設定でベンチマークを実行してみました。
まあ、K型番ではないCPUで「定格」ということ自体ちょっと変な感じもあるにはありますが、そのあたりの説明は次の節以降で詳しく行ないます。
純粋なCPU性能を見るベンチマークとしては定番となるCINEBENCH R20を1コアと全コア全負荷状態での実行を行ないました。
スコアの方はこんな感じです。
- 1スレッド:485 [pts]
- 16スレッド:3766 [pts]

比率は7.8倍程度で全コア・全負荷かけたものとしては倍率が低め。多スレッド実行での処理効率が上がっていないように見えます。
実はここにはCPUのTDP枠65Wが強く影響を及ぼしています。
16スレッドでのベンチマーク実行時の動作クロック・消費電力をウォッチしてみると、スタートから最初の数十秒間はTDP 65Wの枠を完全に無視してCPUは全コア4.6GHzでブン回ります。
ですがその時間を過ぎると動作クロックは3.5GHz程度まで低下。CPUの消費電力がTDPである65Wにキッチリと制御されて抑制される形になるからです。
TDP 65Wの枠内で動かした場合、CINEBENCH R20のテストでは、Core i7-10700は下位の6コア12スレッドモデルのCore i5 10000番台に負ける、という逆転現象も起きるようです。
今風のCPUで性能を出すには
ターボブーストなどの自動オーバークロック的な機能が実装されてからCPUの「定格クロック」の意味がほぼなくなってしまいましたが、最近のCPUの表向きのTDPは「定格TDP」とでも言った方がいいのかもしれません。実動作時には表向きのTDPの数値自体にもあまり意味がなくなってきた感じです。
実際にCore i7-10700の場合、負荷をかけて最初の28秒ほどは最大「224W」もの電力の消費を許す設定になっているのです。
一応、長時間負荷がかかり続ける場合には65Wの消費電力に収るよう制御は行なわれます。行なわれますが、この電力・発熱面の制限がCore i7-10700の性能を縛っているのもまた事実、ということですね。
実はマザーボードなどの設定により、長時間負荷がかかる場合の消費電力の上限は変更が可能です。その設定を大きく取ることで電力効率は落ちますが「絶対性能」は劇的と言えるほどに向上させられます。
このやり方は動作クロックを上げるいわゆる「オーバクロック」ではありませんので、Core i7-10700の標準で設定された動作クロックの中での動作となり動作の安定度等の方はより安心が出来るものです。
さらに動作クロックの倍率ロックがかかったCPUでも実性能を大きく引き上げられる可能性を持つファクターです。
その代わりCPUは事実上TDP 65WのCPUではなくなり、電力大食らいのCPUに化けてしまいます。
こういった長時間電力制限の設定はマザーボードのUEFIからだけではなく、インテル謹製のオーバークロックツール「Intel Extreme Tuning Utility」から「OS再起動なし」で変更可能です。

さてこのあと実際に事実上のTDPを変更する設定となる、長時間電力制限の値を大きくしてベンチマークを実行した結果をまとめます。
パワーリミットを盛ってさらにベンチマーク
前の節で述べたIntel Extreme Tuning Utility(以下IETU)を使って長時間電力制限のパラメーターのみを変更して再度CINEBENCH R20を実行してみます。
TDP 150W設定では16スレッド実行の性能が大幅に向上して4735[pts]まで伸ばせることが確認できました。
- 16スレッド:4735 [pts]

この際CPUのコア温度は概ね80[℃]程度まで上昇。(室温25[℃]ほど)
CPUのヒートシンクには空冷のハイエンド級となるNoctuaの製品を使用していますが、さすがにこれ以上の温度上昇は気持ちがよろしくありませんので、これ以上、消費電力を増やしてのテストは止めておきました。

一応、170W程度までの消費電力を許容すれば、ずっと全コアブーストの上限である4.6GHz駆動を続けられそうなのですけれどね。
ちなみに150Wの消費電力制限に引っかかった状態での動作クロックは4.5GHzとちょっと。実用上の差はほとんどなさそうな感じではあるのですけれど。
一般的なアプリだと
ベンチマークソフトではない一般的なアプリでCPUをフルに使うようなものを実行していて気づいたのですが、実はWindows 10のタスクマネージャーが表示するCPU負荷とIETUが表示するCPUの負荷の間には思いの外大きな差があることが分りました。
タスクマネージャーのCPUが100%振り切っている状態でもIETU側ではせいぜい70%、といったケースが多々あります。

IETUで色々調整しながらコア温度、消費電力と電力制限に引っかかった状態でのスロットリング等をウォッチしてみたのですが、IETU読みで65%程度のCPU負荷だったら長時間電力制限が125Wの設定でギリギリ電力制限によるスロットリングが発生するかどうかで動いてくれるようです。
ベンチマークでフル性能を引き出すためには150W~の高い電力制限設定が必要ですが、それ以外の一般的なCPUディペンドなタスクであればそこまで高い設定を行う必要もなさそうです。
また、そこまでの設定で良ければ冷却系のハードルは結構下がります。
ちなみに著者のマシンの環境であればその際のCPUコア温度は70[℃]を下回るぐらい。かなり安心感は高くなります。
実効消費電力は実は小さい??
こうやって見てくると第10世代のCoreプロセッサって性能を出すためにはバカみたいに電気を食うとても非エコなCPUに見えます。
実際フルパワーでしっかり性能を発揮させると電力効率はAMDのRyzenシリーズ、特に第3世代の製品とは比べものにならないほど電力食いで爆熱なCPUです。
また、クロックあたり性能でもかなりRyzenシリーズに先を行かれている感じです。
一応、電力をじゃぶじゃぶ突っ込めば絶対性能的には肩を並べるレベルまではいけるのですけれども。
ただ、ほとんどのユーザーがCPUを全力で動かす時間って非常に短いはずです。ですので実際にパソコンが食う電力のトータルはむしろアイドル状態とか非常に低い負荷での消費電力のほうが影響が大きくなります。
この観点ではまだCoreプロセッサの方が有利な感触がありました。
今、著者は冒頭に書いた構成に加えて3.5インチのHDDを2台載せた状態のかなり重厚な構成で毎日メインPCを運用しています。
この構成でも、ブラウザで有料動画配信サービスの番組を見つつ、ブラウザゲームの艦これを放置した状態で、最小60W台の消費電力で動いてくれるのです。

現行世代のCore iシリーズは、日常的なごく普通の使い方の状態での消費電力の低さは十分に優秀なのではないか、と感じました。
これに対してRyzenシリーズで組んだPCはアイドル時、低負荷時に消費電力が落ちきらないのが弱点と言えば弱点になるかもしれません。アイドル時には40Wまで消費電力を落とせるCoreシリーズと50Wまでしか落ちない第3世代のRyzenで10Wの差が出ます。
本当にPCの電力面をトータルで考えるなら、こちらの切り口もキチンと見ておかないといけないのかもしれない、そんな風に考えています。定量的なテストはなかなか難しいのですけれど。
ちなみに、前の節までに書いたような電力制限を引き上げる設定変更を行なっても、通常時、低負荷時には消費電力が増える悪影響がありません。この辺は電力制限の設定変更による実性能チューニングのオイシイ所の一つですね。
まとめ
《 Core i7-10700 》は事前に仕入れていた情報通り、フルパワーで動かそうとすると電力食いで爆熱な製品であることは実感として理解できました。
電力制限をいじって「TDP 150W級」のCPUとして動作させればRyzen 7 3700Xと同クラスのマルチスレッド性能を出せるポテンシャルはある、というのはちょっと面白かったですね。
ただ、これをキチンと安定して動作させ続けるためには、空冷ならハイエンド級のかなり強力なCPUヒートシンクが必須になります。
さらにCore i7-10700をフルパワーで動作させるためにはツールを使ってユーザーが手動調節を行なう必要もあります。
こういった観点からすると、PCに不慣れなユーザーにはちょっとおすすめはしにくい製品と言うことになってしまうかもしれません。
一応、定格の消費電力設定のまま使っても、そこそこの性能を持つ8コア16スレッドCPUとして問題なく動いてくれますが、価格設定の面もあってコストパフォーマンスではやはりRyzenシリーズに譲ることになります。
今、Ryzen 7 3700Xの販売価格はおおむね4万円ほど。これに対しCore i7-10700は4万8千円のプライスタグがつきます。Core i7-10700のほうが1万円安かったら、もうちょっと面白い状況が生まれていたと思うのですが。