はじめに
パソコンを趣味としている人ならご存じだと思いますが、今、パソコン用CPUのジャンルではシェアなどの大変動が起きています。
インテルが10nm世代の製造プロセスの実用化で超々大苦戦をした余波が各所に及び部材の不足を招きました。
たまたまとは思いますが、タイミングを合わせるような形でAMDが非常に優秀なCPUのRyzenシリーズを開発して販売を開始、かなり久々にAMDのCPUがパソコン市場でシェアを大きく伸ばすことに繋がったのです。
自作機向けCPUではシェアが逆転、さらに従来ほぼインテル製CPUの独壇場だったノートパソコン向けにもRyzenシリーズがどんどん食い込み始めています。そしてその動きはさらに加速する勢いです。
今回は現在絶好調のRyzenシリーズのエントリー機を試してみます。使用するパーツはAMDがAPUと呼ぶGPUを統合したタイプの製品でRyzen 3 3200Gです。
今回使ったパーツ
まずは今回、1台組むときに使用したパーツをまとめておきます。
CPU Ryzen 3 3200G 定格3.6GHz、ブースト時4GHz動作 4コア4スレッド対応
マザーボード B450チップセット マイクロATXタイプ
マザーボードは今回もASRockの製品をチョイス。B450M Pro 4です。

メインメモリはPentium G5400マシンを組んだときに使ったG.SKILLのF4-2400C15D-8GNT、4GBのモジュール2枚組のモノを流用しました。
ストレージも流用。WDのBlack 250GBのものでPCIe3.0 x4接続M.2タイプです。
価格の方はCPUは12,600円、マザーボードは8,244円で購入しています。
このマザーボードの大きな特徴はマイクロATX規格の製品ながらメモリスロットが4つついていることです。対応するメモリモジュールを使えば簡単に大容量のメインメモリが実現できます。

CPUはリテールパッケージで

オリジナルヒートシンク付き。AMDが「Wraith Stealth」と呼ぶオリジナルのCPUファンが付属しています。

組み立てから起動まで
今回Ryzen 3マシンを組み上げるときに実は完全にスムーズにはいかず、少しだけ手間取りました。
一つはマザーボードのメモリスロット回り。
メモリチャンネル2つのそれぞれに2組のDDR4メモリスロットがあるのですが、その2つのメモリスロットでメモリタイミング等の条件が異なります。主となるメモリスロットはややメモリタイミング等が緩め、2つめにはかなりシビアな条件が設定されています。
このため今回使用したメモリモジュールでは、サブの方にメモリを接続した場合にはマシンが起動しませんでした。
ちなみに条件が緩いメインと思われるメモリスロットには「2」の番号が振られています。通常、2本のメモリモジュールを使うときにはA2とB2のメモリスロットを使ったほうがよい設定のようです。この番号で勘違いしました。
4つのメモリスロットをすべて使おうとすると転送速度が控えめのメモリモジュールを使う必要があります。
もう一つ手間取ったのはCPUのヒートシンクの固定です。
すごくしっかりした、マザーボードの基板に負担をかけなさそうなバックプレートが使われているのですが、これへの固定に決まった手順があってそれを外すと「手が3本」必要な構造をしています。
AMDのこのタイプのバックプレートは、マザーボードをケースに設置する前にCPUヒートシンクを固定してしまわないといけないようです。
固定用のネジの頭が一見すると指でも軽く回せそうな見た目なのですが、実際にはかなり堅く指ではほぼ回せません。固定にはドライバーが必須です。このため固定の手順は確実に守りましょう。無駄な苦労をすることになってしまいますから。

ちなみにメモリとCPUヒートシンク設置のドタバタがあってもパーツの組み込みにかかった時間は20分ぐらいです。上に書いたような注意点さえ知っていれば組み立てには何も問題のないパーツです。
一度組み上がってしまえばあとはWindows 10起動まで全く問題はありませんでした。
起動後にドライバーをすべて更新、さらにその後UEFIのメモリ関連の設定をXMPに切り替えてメインメモリはPC4-19200動作に変更しました。
当然のごとく快適な使用感
Ryzen 3 3200Gは動作クロックも十分に高く、AMDの前の世代のマイクロアーキテクチャを採用したCPUとは異なりクロックあたり性能も極めて優秀です。
さらにGPUを統合したCPUながらリアル4コアを内蔵してるため、元々の性能面の基礎体力がとても高い水準にある製品です。

ですので、普通の使い途の範囲では非常に快適な使用感が予想できますし、実際その通りにWindows 10自体もその上で動作するアプリもまさにサクサクと心地よい使い勝手になっています。
OSをインストールしたストレージが高速なタイプのSSDであることもあり、起動後の動作が少しモッサリするはずの時間もほぼ完全にゼロ。電源を入れてから起動までも非常に高速で素晴らしい使いごこちです。
内蔵ストレージの数を増やしたりUSB接続の周辺機器が増えるとBIOSポストやOS起動までの時間が多少延びるはずですが、それでも十分以上の使用感が期待できます。
外部ビデオカードを載せない状態ではアイドル時の消費電力は30W程度と十分に低く、とても環境にも優しいマシンとも言えると思います。
十分以上なCPU性能
純粋なCPU性能を計測するために今回もCINEBENCH R20を実行してみました。事前に予想したとおりで非常に優秀な数字を叩き出してくれています。
スコアの方はシングルスレッド実行時に367ポイント、

4スレッド実行で1445ポイントでした。

シングルスレッドでのベンチマーク実行中のCPUの動作クロックは3.8GHzを少し超えるぐらいで、4GHzまでクロックが上がるタイミングはほとんどなかった感じです。
Pentium G5400が3.7GHz動作で334ポイントでしたので、クロック差を考慮に入れてもCINEBENCHでのクロックあたりのシングルスレッド性能はRyzen 3 3200Gのほうが高いぐらいに見えます。
リアル2コアでHTによる4スレッド対応になっているPentium G5400とは、4スレッド実行の性能はさすがに大きく違いますね。完全に地力の差が出ている感じです。
Core i7-4930K(第3世代のCoreと同じアーキテクチャ)を4GHz駆動したときの1スレッド実行のベンチマーク結果が288ポイントですので、CPUコアの世代の差による性能差を大きく感じる結果にもなりました。
CINEBENCHを4スレッド実行したときの消費電力は90W弱。87W前後で推移することが多かった感じです。グラフィクス処理はほとんどありませんので、ほぼCPU側が使っている電力になると思います。

アイドル時との差は60W弱で、フル稼働したときのCPU自体の消費電力はTDPの65Wにかなり近い数字になっていそうです。
また、フル稼働させたときにもCPUのヒートシンクは十分に静かでした。その状態でCPUの温度は50度後半ぐらいに納まっていましたのでリテールクーラーの冷却能力は十分そうです。
最新のRyzenシリーズではPCI Expressのバージョン4がサポートされるようになっていますが、今回使用したRyzen 3 3200Gではバージョン3.0までのサポートとなります。
このパーツの前にトライしたCPUのPentium G5400ではPCIeの接続はバージョン2.0になっていたため、使用しているSSDであるWD Blackシリーズの性能を引き出し切れていませんでした。
つまり今回の構成でようやくSSD本来の性能を見られるようになったわけです。
こちらもストレージの性能測定の定番CyrstalDiskMarkを使った計測を行なってみましたが、製品のスペック通りまたは一部はスペックシートの値を超える数値を叩き出しました。

ただ、ここまで来るとごくわずかなケース以外SSDの性能差が使い勝手に影響を与えることはありません。今回もPentium G5400の時と使用感には全くと差がありませんでした。
もちろん十分以上に快適ですよ。
GPUも統合型としては高性能
Ryzen 3 3200Gは統合GPUにはRadeon Vega 8を採用しています。この世代のRyzenのAPUとしては統合GPUの規模が小さな方で、名前が示すとおり8つのGPUコアを搭載します。それでもSP数に換算すると512SP相当となり、統合GPUとしては大規模なものになります。
ちょっと残念ですがRadeonシリーズ最新のマイクロアーキテクチャRDNAではなく、GPU自体の電力効率・処理効率は最高のものではありません。ですがGCNアーキテクチャとしては新しいバージョンのものとなっているので、そこそこのグラフィック処理効率を持っています。
そういった要因が相まって「統合GPUとしては」というエクスキューズはつくものの、描画性能はそこそこ高めです。現在の外部GPUとは比較にはなりませんが、何年か前のエントリークラスのビデオカードの存在理由は完全に消せる実力があります。
今回もドラクエXベンチマークを利用させていただきましたが、統合GPUで普通に計測するであろう1,280 x 720ドットの解像度での測定結果は当然のごとく「すごく快適」の評価になりました。スコアも14,460ポントに達しています。

試しにフルHD解像度(1,920 x 1,080ドット)、高画質での測定も行ないましたが、こちらでも8,000ポイントを超えるスコアを叩き出し「とても快適」評価になっています。

ドラクエXは今ではかなりライトな方の3Dゲームタイトルになっていますが、これぐらいのグラフィックの3Dゲームならばもはや独立GPUは不要になった、ということですね。
安価にかなりオールマイティなマシンが組める非常に優秀なAPUと言えます。
ちなみにドラクエXベンチ実行中の消費電力は80W弱。こちらもかなり省エネです。

一応、3DMarkのスコアも取ってみました。TimeSpyの通常版が1,000ポイントちょっと。さすがにこのクラスのグラフィクスになると、統合GPUでの実行はかなり無理がありますね。

GPU周りでちょっと面白いと思ったのは、標準の設定だと統合GPUがメモリのうち2GBを占有する作りになっていることです。OS・アプリ側がメインメモリとして認識している量は6GBになっています。

物理的には同じメモリを使っていてもソフト的な見た目上は共有メモリにはなっていない、というのはちょっと面白い仕様です。
この仕様のため、メモリ4GB以下の構成のマシンだと少々動作が厳しくなる可能性があるかもしれません。
まとめ。普段使いにこれ以上って必要?
Ryzen 3 3200Gはスペックを見ただけで高い性能バランスを持つCPUであることが予想できますが、その期待を全く裏切らぬ非常にしっかりとした性能を見せてくれるCPUに仕上がっていました。

CPU部は十分高い動作クロックを実現している上にクロック当たり性能を示すIPCも良好で、さらにリアルクアッドコア。一般的な使い途には十分以上の性能を持っています。
高解像度の動画編集・エンコードや、高解像度な写真のRAWデータからの現像処理を大量に行なうなどごく一部の極めて重い処理を除き、これ以上の性能は不要だろうと思わせてくれるパソコンになってくれています。
グラフィック性能も普段使いには十分で、ライトなものなら3Dもののゲームも楽々動かせます。こちらの観点でも普段使いで外部のビデオカードの追加が必要になるケースはすごく少なくなったと言えると思います。
これだけの実用性能を持ちつつ上手く節約すれば5万円台でOSまで含めて1台組むことも十分に視野に入る、とても優秀なパーツと結論づけられると思います。。
PCファン、業務などの実用の用途でパソコンが必須の人にとっても、いい時代になったものだ、と改めて感じさせてくれるような製品でした。