地味だけど超重要
今のパソコンのいくつかの重要なパーツはかなりの熱を出します。CPUとかビデオカードの中心となるチップのGPUとか。
1cm角やそれ以下の小さな半導体チップが最大100Wを超える電気を食ってその分がほぼすべて熱に変わるわけですから、その熱くなりっぷりは驚くべきレベルです。
冷却せずにフル稼働させると、パソコン用のCPUやGPUの多くは自分の出す熱で「焼けて」しまいます。極めて微細な配線が切れる等々でそれぞれのチップは壊れます。
そういったチップを十分に冷やすためのパーツが一見地味に見えますがとても大切な部材、ヒートシンクです。CPUに付けるものはCPUファン、CPUクーラーとも呼ばれたりしますね。
今ここのサイトでKenu氏と一緒に試してみるエントリークラスのマシン、ここまではCPUについてきたリテールクーラー、インテル標準のクーラーを使っています。これを今回ちょっと面白いクーラに交換してみることにしました。
今回チョイスしたのはThermaltakeのEngine 27。ロープロファイルで総金属製。非常に美しい、と表現するのがピッタリくるような作りのヒートシンクです。

今のパソコンでは重要度がより高まったCPUクーラーの役目
今のパソコン用のCPUは定格のスペックだけではその実性能が測れなくなっています。
インテルのCPUだと「ターボブースト」という機能と「EIST」という、CPUの動作クロックをパソコンの負荷の状況に合わせてとても柔軟に変えられる仕組みが入ってから、実際の性能がCPUのカタログスペックだけからは見えにくくなっています。
特にターボブーストの方は温度センサーの情報も見ながらパソコンが自動的に動作クロックを変えていきますので、十分に冷やせないCPUクーラーを使っている場合にはターボブーストが効かなかったり、効いても短時間で通常のクロックに戻ったりします。
ターボブーストは「自動オーバークロック」みたいなものですから、ブーストが効いている時間が長くなるほどパソコンの実性能も高くなります。
また、これ以外でもハイパワーなPCを温度が高い中で安定して動かすには、CPUクーラーの性能が高くないと安心が出来ません。
万が一CPUを冷やしきれなくなるとパソコンはCPUを守るために強制的に動作クロックを引き下げるので、性能がガクンと落ちてしまいます。
薄い本体で十分なスペック
Thermaltake Engine 27は総金属製で見た目がとてもクールなCPUクーラーですが、もう一つ結構重要で他の製品よりも優れた特徴があります。
それはCPUクーラー自体の背の低さ、というより「薄さ」と言った方がいいぐらいのコンパクトさですね。リテールクーラの半分に近いぐらいの、結構驚きの薄さです。

そんなコンパクトなサイズながら最大で70WのTDPのCPUに対応できる、とメーカーでは公言しています。
最新のインテルのCoreプロセッサだとCore i5-9500など、6コアのCPUでもTDPは65Wに収まっています。これだけハイパワーなCPUもスペック上はこのコンパクトなCPUクーラーで冷やせることになるわけです。
薄型のケースにシステムを押し込んで、コンパクトだけどすごくパワーのあるPCも十分に実現可能、ということですね。
なかなか楽しいと思いません?
今回も製品はAmazonで手配。Amazon本体の取り扱いでした。価格は税込み4,160円。それなりの大型クーラーにも並ぶ価格ですが、このビルドクオリティならこのお値段も納得です。
取り付け
Thermaltake Engine 27はほぼすべて金属製になっているため、CPUクーラー本体はかなりの重さです。リテールクーラーと比べるとズッシリとした重さがあり、金属フェチ的な観点ではこれだけグッとくる所もあるかも。
ただCPUクーラーではこの重さはマイナスに働きます。
普通のCPUクーラーを取り付けるための穴はマザーボードに直接重さがかかるカタチになっていますから、重いCPUクーラーはマザーボードに負担をかけます。
これを回避するために大型クーラー、重いクーラーには独自の固定用のアダプターがついてきます。Thermaltake Engine 27もこの例に漏れず、CPUファン固定用の専用「バックプレート」がついてきます。

Thermaltake Engine 27のヒートシンクはしっかりと確実な固定が出来るネジ止めですが、ネジを締め付けたときにテンションが直接かかりすぎるのを防ぐためにバネがついています。
このバネがあるために固定の際にちょっとした手間はあります。ただ、手元に来た個体ではネジの長さが適切になっているので、取り付けではさほど苦労はしませんでした。バネを縮めるようにして押し込んだりしなくても上手くバックプレート側のネジ山にかかってくれました。
ただ、取り付けの際にはマザーボードをケースから出して作業をした方が間違いなく楽です。メンテナンスホールがあるケースでも、面倒でも一度マザーボードを外した方がいいと思います。
今回はCPUクーラーとCPUのヒートスプレッダの間に塗るシリコングリスには、Engine 27の付属品をそのまま使っています。十分な量があって柔らかく塗りやすいグリスでした。
熱伝導率などは明記されていませんが、特に高性能タイプのグリスではないと思います。
温度・音をチェック
ヒートシンクを交換して少しならし運転を行なったあと、CPUの温度をおなじみのIntel PowerGadgetを使ってウォッチしてみます。
室温24度台の中での動作ですが、CINEBENCHを動かしてCPUに100%の負荷をかけても温度上昇はとても穏やか。最高でも50度に達するかどうかでした。
十分以上に冷やせている感じですね。

ただ、CINEBENCHでフル稼働するのはCPUの方だけ。Pentium G5400はGPUを統合したパッケージですが、GPUのほうはほぼ遊んでいる状態です。
実際にPowerGadgetで見る限りCPUコアが食っている電力は20WちょっとでGPUはクロックも上がっていません。まだまだ設定されているTDPと比べると余裕があります。
なので次はドラクエXベンチを動かしているときの温度を見てみたのですが、こちらはもっと温度が上がらない。
室温は25度程度の中での動作で、45度ぐらいまでしかCPUの温度が上がりません。
GPUがどれぐらい電力を食っているのかモニターできないのですが、トータルの発熱という意味ではCINEBENCHよりもずっと穏やかなようです。
一応、3Dグラフィクスの性能を測ると言えば必ずこれが出てくる3D Markも実行してみたのですが、やっぱり全然温度が上がりません。ログの数字で見た限り最大でも46度でした。
Thermaltake Engine 27は少なくともPentium G5400には十分以上の性能を持っていると言えますね。
ただ、Pentium G5400自体、設定されているTDPにかなり余裕を持たせてある感じです。CPU部とGPU部がそれぞれフルに動いたとしても45Wぐらいしか電気を食わない雰囲気がありますね。また、そんな使い方は通常はほぼないはずです。
ゲームならばGPUに主に負荷がかかってCPUは遊び気味、CPUを使うアプリの多くはGPUのほうをあまり使わないからです。
発熱が通常はかなり低めのCPUなのでリテールクーラーでも十分に冷やせていましたから、実はCPUクーラーを交換してもこと「冷やす」という部分での性能アップはあまり感じられていません。ここはちょっと残念かも。
リテールクーラーもEngine 27もついているファンはPWMタイプで、温度などの状況に合わせて回転数が可変のものだと思います。ですので70度とかギリギリの温度になるまではファン回転数が低めに調節されてしまって、CPUファンの違いによる冷却能力の差が見えなくなってしまうのだと思います。
もうちょっとハイパワー&発熱の多いCPUを使わないと、このCPUファンの能力は見極められない感触ですね。
ただ、これだけの薄さでリテールクーラーに匹敵するか上回る性能を実現しているのは正直すごいです。
音の方は確実にリテールクーラーよりも静かです。ほんのわずかに「キーン」という感じの金属的な音があるにはありますがほとんど気になりません。ケースに入れてふたをしてしまえばこの音が聞こえることはないでしょう。
こちらの面では交換の価値は確実にありました。
結論。今のシステムには十分以上の性能
結論としてはPentium G5400に対してはこのCPUクーラーは十分以上の冷却性能がある、と言って間違いないと思います。
負荷をかけたときのCPUの動きを見ていると、そもそも58WというTDPが実際の発熱に対してかなりマージンを取った感じのスペックになっているというのも理由のひとつだとは思いますが。
とりあえず一般的な使い方ではゲームを動かしても重いアプリでCPUをブン回しても、このCPUファンの冷却能力を100%使い切ることは難しそうです。
つまり、室温が高いなど条件が悪い中でも安心してマシンを使える、と言うことでもあります。
スリムケースで使ってケースの中の絶対的な空気の量が少なくなると冷却の条件も変化しますが、普通のエアフローが確保できているケースであればまず問題なく運用できるでしょう。

見た目もすごくクールでカッコいいファンなので、ケースの中にしまってしまうのがもったいないぐらい。最近はサイドパネルが透明になった「魅せ」PC用のケースもありますから、そういった使い方にも適したファンかもしれません。