はじめに
イマドキのパソコンはすごく高性能になっています。
ハイエンドクラスと言われる機種はもちろんのこと、エントリークラスの機種でも普段使いには十分以上といっていいだけの性能を持ちます。
パソコンはどちらかというと耐久消費財に近いイメージがあって、一度、安定して自分の目的を満たせる機種を組めれば、よっぽど重大なトラブルでも起きない限りなかなか新機種に移行する気にはならないものです。
実際わたしも未だにメインマシンは、CPUにCore i7-3930KをOCしたものを載せた自作機を使い続けていたりします。その結果、実は今風の最新パーツで組んだマシンの性能がどれぐらいのものなのかが肌感覚として分っていません。
そんなところにこのサイトのオーナーKenu氏から、最新パーツの提供とそれを使ったレビューのお話をいただきました。
今回はまさに渡りに船。このチャンスに乗らせてもらって自分自身の疑問と興味も一緒に満たしてしまおうと、イマドキの最新エントリークラスのPC、パーツたちを試してみることにしました。
ということで、まずはパソコンの本当の心臓部となるパーツ、CPU、マザーボード、メインメモリの最新でローエンドに近いパーツを使って一台組んでみます。
お手頃価格でもあるパーツ使って使ったマシンがどんな使い勝手を見せてくれるか、お手並み拝見といきましょう。
選んだパーツ
CPUには最新の5000番台のモデルナンバーを持つ、インテルの「Pentium Gold」シリーズを使います。このCPUのコア自体は最新のCoreプロセッサと同じものになっています。

このクラスのCPUは本来ならば大量に安くモノが市場に出回ているはずですが、今はまったく新品が市場に見当たらない状態です。
これはインテルが従来の世代のCPUから次の世代のCPUへの切り替えで大苦戦している影響で、CoreシリーズのCPUがものすごく不足しているのです。その余波を食ってPentium Goldシリーズの5000番台もタマが市場に回ってきていません。
このため今回はしかたなくこのシリーズでもちょいと古めのPentium G5400を中古で入手しました。

このCPUは2コア4スレッド対応の製品で動作クロックは3.7GHz。ターボブースト機能はオミットされています。統合されているGPUはインテルUHDグラフィクス610で3D演算ユニット、インテルが言うところのEU数は12。SP数に直すと96ユニット相当です。
マザーボードはソケット1151用ではローエンドのH310チップセットでマイクロATXのものを選択してみました。今回はASRockのH310CM-HDV/M.2です。

メインメモリは4GB x 2で合計8GBのDDR4メモリ。パーツを物色したときに最低価格だったG.SKILL F4-2400C15D-8GNTを選択。
この製品、お手頃価格だった割には頑張っているメモリモジュールで、チップ自体はPC4-17000規格のものですがメーカーがタイミング等を追い込んでXMPプロファイルではPC4-19200での動作を可能にしています

ちなみに自作パーツ市場ではメモリモジュールは既に8GBのDIMMモジュールが主役になっちゃってました。なんだかすっかり浦島太郎感。
普通のCoreプロセッサやRyzenを使ったマシンなら、メモリは出来るだけデュアルチャンネル構成にしたいところです。ですので、自作パソコンの世界では事実上搭載メモリ量の標準は8GB x 2の16GBに移行してしまった、ということですね。

ちなみにストレージとケース、電源は手元の余り物をやりくりする形でまとめています。
今回組んだマシンのスペックをまとめてみるとこんな感じに。
CPU Pentium G5400 3.7GHz動作 2コア4スレッド対応
メモリ DDR4 8GB(4GB x 2) PC4-19200対応
マザーボード H310チップセット PCI-Eが2.0までの対応
HDD WD Blue 500GB
電源 無印550W
ケース ミドルタワー
それぞれのパーツのお値段は購入時でこれぐらいです。
CPU Pentium G5400 8,980円(税込)
マザーボード ASRock H310CM-HDV/M.2 6,616円(税込)
メモリ G.SKILL F4-2400C15D-8GNT 4,946円(税込)
中身がほぼ同じで1世代前のPentium G4560は新品が出回っていてこちらは6,000円台で購入可能です。きちんと製品が供給されるようになればPentium G5400もこれぐらいの価格になるはずで、いまはこのクラスの新品・中古品ともプレミア価格がつくような状態になってしまっています。
CPUとメモリを取り付けたマザーボードをケースに納めるとこんな感じです。

大きめのミドルタワーケースなので中身は結構スカスカ。その分配線等々の作業はやりやすいのがメリットですね。本体の設置場所には少し制限が出ますが、初めて1台組んでみるなら作業しやすい大きめのケースがいいかもしれません。
すごく高い実用性
これら3つのパーツで組んだマシンでWindows 10を動かしてみています。
HDDは手元にあった余り物ですがWestern DigitalのWD Blueの500GB。かなり前の世代で7,200RPM時代のものです。電源はWINDYブランドのこれまた大昔のVarius V550。
ケースはAOpenのモノだったと思いますが、もう型番等々も思い出せないぐらいに古いちょっと大きめのミドルタワーケース。実はアルミシャシーで軽いです。
さて肝心の使い勝手の方ですが、正直なところ実用性の高さに少々驚きました。
OSを入れているストレージがハードディスクですから、OSの起動や重たいアプリの立ち上げでは少し待つ部分ががどうしても出ます。が、これは仕方がないですね。でもそういった待ちの部分を除けばとても使い勝手はいいです。すごく快適。
起動済みのアプリの動作やWindows 10自体の操作感は間違いなく「サクサク」と言っていいでしょう。
ブラウザでネットを巡回したり、ネット動画を見るぐらいなら操作上のストレスは全然ありません。比較的近い価格帯でもATOMコアのCPUを使ったマシンとはやっぱりひと味ふた味違いますね。
この使い勝手には、メインメモリが8GBあるのもいろいろなところで有利に働いていそうな気がします。

どうもWindows 10は搭載されているメインメモリの量を見て内部の動作を変えている雰囲気があります。
具体的にはメインメモリがたっぷりあればOSのコア以外の機能もメインメモリ上に展開している感触。(メインメモリ搭載量が増えるとOSがリザーブするメモリ量が増える)
このためメモリをたくさん積んだパソコンほど、多くのケースで操作感が少しアップする感じですね。より多くの箇所で操作の引っかかり等の不快感がなくなります。
オフィスソフトの操作感も上々です。最新のOffice 365でチェックしているのですが、Excelでの大きなシートのスクロールもとてもスムーズです。
オフィススイートを使った事務用途+簡単なネット閲覧、ネット動画視聴ぐらいだったら、ほとんどのユーザーがこの構成のマシンで十分に快適な使いごこちと思えるでしょう。
最近のすごく重たい処理を行なうアプリ、例えば動画編集や高解像度の写真のリタッチなんかは、CPUに搭載されたコアを出来るだけ全部使い切るような動きをします。それで処理速度の向上を図っています。
そんな超がつくレベルの重たい処理では、2つしか実コアがないPentium G5400だと力不足と感じられるケースが多くなると思います。
ただ、個人の趣味のように多少処理に時間がかかってもOKならば大丈夫でしょう。結果自体はしっかり同じものが出ますから。
その代わり仕事でそんなタスクを行なう時は、多くの場合、処理効率が命という感じになります。ですので、仕事で使うなど処理効率の高さを求められるケースではちょっと厳しい場面が増えるでしょう。
・統合GPUでも遊べる3Dゲームもある
一般的なイメージだとビデオカードを搭載していないパソコンではゲームは出来ない、と思われているかも。
でも実際にはイマドキの統合GPUはそこそこのグラフィック性能を持つようになっていて、3Dものでも軽いゲームなら十分に遊べる性能があります。もちろん過大な期待は禁物ですけどね。
例えば3Dモノでもビデオカードへの負担が少ないゲームの一つ、ドラクエXのベンチマークを動かしてみるとこんな感じのスコアが出せます。

解像度1,280 x 720ドット、画質は「標準」の設定で「快適」の評価をとれるぐらいの性能はあるのです。
ちなみに古参MMORPGのラグナロクオンラインをプレイしつつそのプレイ動画を動画キャプチャしてみましたが、これも全く問題なくクリアできました。さすがにプレイの実況生放送は厳しいでしょうけれど。
こちらに関してはPentium G5400の統合GPUに動画のハードウェアエンコーダ、インテルの「Quick Sync Video」が内蔵されているのが大きいです。Windows 10のゲームDVRの動画キャプチャ機能はGPU搭載の機能を積極的に活用してくれますから。
つまりCPUに余分な負荷をかけることなく、本来はとても重いタスクの動画エンコードをリアルタイムでこなしてくれるということです。
2Dもののゲームだったらさらに問題はありません。ブラウザゲームとしては超重量級になると思われる艦これこと「艦隊これくしょん」なんかもサクサク動きます。
さすがに最新の3Dバリバリのゲームだとかなり苦しくなるでしょうけど、自分の遊びたいゲームタイトルの特性をしっかり確認した上でパソコンのスペックを考えてみるのがいいと思います。
重たいゲームを遊びもしないのに、よく分らないから「とりあえずハイエンド機種を買っとこ」、はちょっといろいろもったいないです。
重たい処理の一例、デジカメの写真現像は?
デジタル一眼レフやミラーレス一眼といった本格的なデジカメには、撮影時にイメージセンサーから読み出したデータを生のまま(RAW)記録するモードがあります。
このデータを使うとあとからパソコンで細かく設定を調整しつつ、自分の好みに写真を作り直すことが出来ます。写真の世界ではこの処理をフィルム時代の写真になぞらえて「現像」と呼んでいます。
実はデジカメの画素数がすごく増えた関係でこの現像処理は最新のパソコンにもかなり重たい作業になっています。今回組んだマシンの実際の処理速度をチェックするために約2,000万画素のデジタルカメラの写真を調整・現像の作業をやってみました。
実際の操作感としては写真の色や明るさ調整の操作、ドット等倍まで拡大して写真を細かくチェックする作業は何一つ問題なし。ビックリするほどのサクサク動作で快適に調整が行えました。

ただ、最後にJPEG形式の写真を生成する処理の待ち時間はCPUの性能なり。普段使っている6コア12スレッド対応CPUのCore i7-3930Kを載せたメインマシンよりもかなり遅いです。
やっぱりこのタイプのタスクで作業スピードが重要な問題になるような使い方には、このマシンの性能だと少し厳しい、と言った方が良さそうです。
ですがパソコンの性能に関係なく出来上がる写真の画質は一緒です。違いは1枚写真が出来上がるまでの時間だけ。なので趣味で写真の調整から画像生成までにたっぷり時間を使っても大丈夫というユーザーなら、この使い途でも十分に対応できるとだけの能力はあります。
実際の調整の作業中の操作感はすごく良かったので作業自体でストレスはほぼ感じませんし。
パソコンって本当に高い?
OSのサポート期限切れの際に聞えてくることが多い意見のひとつに、パソコンはすごく高い製品だから買い換えは難しい、といったものがあります。
絶対的な数字で見ればパソコンって確かに安い商品ではないですね。ですが、今はこんな発言をする人たちが思っているよりもパソコンはずっと安く手に入れられるケースが増えています、間違いなく。
実際、今回使ってみたパーツは合計で2万円弱。これに加えてあとはケース、電源、内蔵ストレージ、OS本体があればパソコンが1台出来上ります。

ケースと電源は安いモノを探せばそれぞれ3,000円ずつぐらいで入手可能。内蔵ストレージは250GBクラスでSATA3接続だったら「SSD」がやっぱり3,000円台から手に入れられます。買うときにはWindows 10のOS自体が一番高くてHome版で15,000円ほど。
つまり合計で5万円かけずにかなり実用性が高いパソコンを1台ゲットできるってわけです。
しかもこれ、メインメモリが8GBもあって内蔵ストレージも高速レスポンスのSSDを使いつつのお値段ですからね。
パソコンを何に使うかよく分らない&パソコンの機能・性能がよく分らないから、保険の意味で値段が高くて性能もとても高い機種を押えておこう、っていうやり方は実は一番もったいないことなのかもしれません。
パソコンを買ったあとにその高い性能を発揮させられるような使い途が見つかるなら元は取れるんですけどね。
ちなみにこちらは蛇足っぽいですが、Amazonのマーケットプレイスなどには正規のWindows 10よりも安い商品が結構並んでます。ですがそういった商品の多くは「不正ライセンス」のもの。
購入してもライセンス認証が通らないといったトラブルに巻き込まれてお金と手間の無駄になる可能性が高いです。だからOS本体は正規品、AmazonならばAmazon自体が販売する製品を購入するようにしましょう。ここはお金をケチっちゃダメ。
結論。普通の使い方ならエントリー機でも十分以上
今回はCPUとマザーボードにエントリークラスのパーツを選んで1台マシンを組んでみました。メインメモリは実用上十分な8GBですが、今だとエントリー構成にあたるような容量です。
出来上がったパソコンは中身のスペック的にローエンドに近いものですが、実用性はとても高いです。
オフィスソフトで文書作成、軽いゲーム、ブラウザで各種のネットの閲覧、ネット動画閲覧といった一般的なパソコンの使い方には十分以上の性能を持っていることが確認できました。
その十分な性能・使い勝手の良さには正直わたしも驚きでした。
パソコンの世界は以前ほどではないけれど製品やパーツの進化のスピードがすごく速いです。比喩には日進月歩ではなく「秒進分歩」なんて造語が使われたりもします。ある時点で最新・最高性能のパソコンを組んでも2年後にはその性能はごく普通になり、5年後には陳腐化してしまう世界です。
購入した時点でマシンが持っている性能・機能をフルに使えていればOKですが、性能を持て余しているような状態ならば「所有欲を満たす」って点を除けばちょっともったいない買い物にります。(趣味において「所有欲を満たす」もとても大切な要素ですけれど)
パソコンを新調するタイミングで必要なだけの性能を持ったパソコンを安く仕上げて、比較的短いサイクルでどんどん乗り換えていくのが実は効率の良い使い方なのかもしれませんね。今回のトライでそんなことを感じました。
さらに自作パソコンだったらそっち方面の知識がつけば、自分でCPUやパーツをランクアップして順番に少しずつパワーアップさせることも可能になるわけですし。
今回いろいろ試してみた感触だと、今風のエントリー機は多分Core 2 Duo世代のハイエンド機よりもずっと高い性能・実用性を持っているのではないかと思います。実際の使用感もすごくいい感じでした。
このレポートを作る中で使ったパーツは、「エントリー機」と言われるクラスのマシンを見直す意味が十分にあると教えてくれる機材達でした。